「…まだですか?」
「まだ駄目」
「…」
オルキはイアンの手を持ち押し付けるように掌に口付けている。
とは言ってもそれは口付けというほど甘さを帯びたものでも無かったが。
「うー…なんで掌の匂い嗅いでるんですか」
「嗅いでるんじゃないし…」
少年の方は口付けということにすら気付いてはいなかったらしい。
あまりの緩さにオルキは気の抜ける思いだったが、
さして、問題でも無かったので再び行為に没頭する。
布越しの感触なぞ、あって無きに等しいものだったがこうゆう行為はすることに
意義があるのである。
頭の中で自分に言い訳をしつつ、彼の掌のあらゆる箇所に口付けを施した。
怪訝そうにこちらを見るイアンの顔はそのままであったが。
「嗅いでるんじゃなければ何してるんですか…?」
怪訝さをそのまま問いに出したらしいイアンの質問にオルキは嘘偽り無く答えて
みせる。
「懇願のキス」
「ぅえ?」
(何と言うか、予想通りだな。反応が)
自分の嘘偽り無い解答に嘘偽り無いらしい反応が返ってきて、オルキは一瞬表情
を緩める。
あまりにも単純な少年に愛しさが沸くのに気付かずに布越しに唇を指に寄せる。
「…手の上なら尊敬、
額の上なら友情
頬の上なら厚情
唇の上なら愛情
掌の上なら懇願
閉じた目の上なら憧憬
腕か首なら欲望のキス…
っていう詞があってね」
「へえ…ってだからって
何で俺にキスを!?」
「ん~…好きだから?」
「聞き返さないでくださいよ!」
困ったように目を泳がせ、戸惑う目の前の少年。
頬がほのかに赤みを帯びているのは、きっと気のせいではないのだろう。
本当に弄くりがいがある子だな、とオルキはそこまで考えて、ある文を思い出し
た。
「あと、」
「?」
「さっきの詞。
腕や首なら欲望のキス…で、そのほかはみな狂気の沙汰なんだって」
またもへえ、と感嘆の声を漏らすイアンの耳元に唇を寄せ、
「よかったね、僕が狂気の沙汰でなくて」
そう囁いて、
今、自分が出来る一番の微笑みを少年に送り、
小さな小さな掌にちゅとリップノイズを鳴らした。
決して見せない懇願を
あなたに
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